関西電鉄i

◆流れ行く時の中で
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by 串八一番
俺が住む高層マンションからは、湾岸の方までよく見えるし、眼下には、関電本線と河内線の交わる金岡公園駅を見下ろすことができる。
そういえば小さい頃、赤と白の縞模様の煙突から、青空に向かって勢いよく立ち上る、幾筋もの真っ白な煙がまぶしかったっけ。
「雄太も、気を付けて学校にいくんだぞ」
そういって、少し荒々しく頭をなでてくれた父の手は、とても大きくて、力強かった。

あれから月日は流れた。
俺はその分だけ成長して大阪市内の企業に就職し、金岡公園駅の高架ホームから、本線の急行電車に乗って北へ向かうようになった。
父はその分だけ老いたけれど、それでも製鉄業の一員としての矜持を胸に、地平ホームから河内線で西に向かい続けた。

ついに、父の退職が決まった。
父から見せられた1枚の紙には、これまでの勤続年数と、残余年数から割り出した退職手当の額が、機械的にはじき出されていた。
希望退職という名のリストラ。
来るべきものが来てしまったのかも知れない。
産業構造の変化、工場機能の海外移転による空洞化現象。そして、長期不況が追い打ちをかけた。

本当に、お疲れさま─────。
父と子の関係ではなく、一人の人間として、あなたに敬意を表したいと思います。
どうか、今後の人生に幸多からんことを……。

煙草を吸うために、ベランダに出る。
軽い警笛が聞こえてきて、駅の方を見ると、あの頃と同じ型の車両が、本線からの乗り換え客を乗せて新日鐵前に向かって発車するところだった。
そしてその上を、関西空港行きの特急電車が軽快に走り抜けていった。

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